大菩薩峠
お銀様の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)靄《もや》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)お前|月代《さかやき》が生えているね。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号)
(例)※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みは》らせ
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         一

 夜が明けると共に靄《もや》も霽《は》れてしまいました。天気も申し分のないよい天気であります。幸内は能登守の屋敷から有野村の伊太夫の家へ迎えられることになりました。
 有野村へ迎えられて幸内が、その今までの経過をすっかり物語りさえすれば、万事は解釈されるのでした。神尾主膳の残忍さ加減と、その屋敷にいる盲剣客《めくらけんかく》の一種異様なる挙動とが、幸内の口から明らかになりさえすれば、それを聞く人々は或いは仰天し、或いは戦慄しながら、事の仔細を了解するはずでありました。けれども不幸にして、送り返された幸内なるものは、ただ送り返されたという名前だけに過ぎません。まだ屍骸《しがい》という
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