の酒乱になってしまったようであります。
「癪《しゃく》に触って腹が立ってたまらぬ故、これからそちを駒井能登めに見立てて、この腹が納まるほど、弄《なぶ》って弄って、弄りのめしてやるからそう思え」
神尾主膳はブルブルと身を慄《ふる》わして、突然、幸内の襟髪を取って引き立て、
「やい、駒井能登守、この神尾主膳をなんとするのじゃ、主膳をなんと心得て、どうしてみようというのじゃ、えい、小癪な」
力を極めて前へ突き倒しました。突き倒されて幸内が突んのめるのを直ぐにまた引き起して、
「痩《や》せこけた駒井能登守、口の利けない駒井能登守、突き倒されて直ぐに突んのめる駒井能登守、この神尾主膳をなんとするのじゃ、えい、腹が立ってたまらぬ、見るも胸が悪くなるわ、やい」
それをまた、力を極めて横へ突き転がしました。突き転がしておいて直ぐにまた引き起し、
「前へ突き倒せば前へ倒れる駒井能登守、横へ転がせば横に転がる駒井能登守、さあ、この次はどうしてくれよう、水を食《くら》わせてくれようか、火を浴びせてくれようか、どうすればこの腹が癒《い》えることじゃ、やい」
こんなことをしているうちに、神尾主膳の酒乱が
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