い」
「せっかく養生中じゃ」
「それからな、今日は重大な音信《たより》を聞いたから、知らせる」
「左様か」
「今日は、おれの方に一人の新参《しんまい》があった、それは、贋金遣《にせがねづか》いとやらの罪で、この牢へ送られた男だが、その男から聞いた話だ」
「なるほど」
「長州では、いよいよ三人の家老を斬って、幕府にお詫《わ》びをすることになったげな」
「ナニナニ、長州で三人の家老を斬って幕府へお詫びをすると? そりゃ夢のような話だ、真実《まこと》とは聞かれぬ」
「どうも、拙者においても信じきれぬのだが、その男の言うことを聞いてみればマンザラ嘘《うそ》とは思われぬ、まあ聞いてくれ、こういうわけじゃ。長州藩では去年の八月、入京を禁ぜられてから、その許しを願うことと、それから例の七卿の復任を許されたいということで、さまざまに建言をするけれど更に御採用がない、この上は兵力を以て京都へ推参して手詰《てづめ》の歎願をするほかはないと、久坂玄瑞《くさかげんずい》、来島又兵衛、入江九一の面々が巨魁《きょかい》で、国老の福原越後を押立てて、およそ四百人の総勢で周防《すおう》の三田尻から、京都へ向って出帆し
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