きました。眼がキラキラと光ってきました。
「アア、口惜しいッ」
 鬼女《きじょ》が炎をふくように言い捨てました。
 その写真には前に言った通り、二人の人が写されているのであります。
 その一人はお銀様もよく知っている駒井能登守の像《すがた》でありました。それと並んだ一人は女の像でありました。
「いつのまに、こんなことに……ああそうだ、この間、お城の前で、わたしを待たせている間に、わたしは、あんな恥かしい目に遭っている時に、お君は城の中でこんなにしていたのか。それとは知らなかった」
 お銀様は、その女の方の像を見ながら歯を咬鳴《かみな》らしました。
「この若い御支配の殿様と、あの奥方気取りで……憎らしいッ」
 お銀様は頭を自棄《やけ》に振って、銀の簪《かんざし》を机の上へ振り落しました。振り落したその簪をグイと掴んで、呪いの息を写真の面《おもて》に吹きかけました。
 お銀様の呪いの的《まと》となっている写真の中の女の像、それは裲襠姿《うちかけすがた》の気高い奥方でありました。美男の聞えある能登守と並んだこの気高くて美しい奥方。お銀にとってそれは、骨を削ってやりたいほどに呪わしいものでなけ
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