大いに元気を揚げようじゃないか、ということに一致したのであります。それで今宵《こよい》出て来たいろいろの議論を参考として、次回の集まりまでに成案を立てるというだけはここできまりました。
 それから各自になるべくその主張するところに多くの賛成者を求めようとして、雑談の間に遊説《ゆうぜい》を試みているのもありました。それで夜の更けると共に、席はいよいよ興が乗ってゆくばかりです。
 この連中が解散を告げて徽典館の門を出た時分に、黒闇《くらやみ》の夜に例の霧のような靄《もや》がいっぱいに拡がっていました。後なる人は前の人の影をさえ見ることができません。前の人はまた後の人の名を呼んで門の前から三々五々、その志す家路に帰ろうとする時に、はじめてこの青少年たちに警戒の心が起りました。
 もう夜が更けている。暗い上に靄《もや》がかかっている。こういう晩に門外へ出ると、そぞろにこのごろの世間の噂の中の人とならないわけにはゆきません。
 彼等は言い合せたように、三人五人かたまって行きました。空身《からみ》であるのもあったけれども、竹刀《しない》と道具とを荷《にな》っているのもありました。お能をやりたいと言
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