》けられる品は?」
「ただいま持参致させる、いや、もう来そうなものじゃ、かねて約束しておいたこと故、間違いはないけれどまだ見えぬ、おっつけ見えるでござろう、いま暫らく」
と言って神尾は人待ち顔に見えます。小林師範も神尾が何物を見せてくれるだろうと、坐り込んで待つことになりました。その他一座の連中も多少の好奇心に誘われます。
「神尾殿、我々に見せたい品とおっしゃるその品は?」
「まず、お待ち下され、到着しての上で御披露する」
神尾の言いぶりが事実を明かさないでおいて、あっと言わせようという趣向のように見えます。
そこへ用人が出て来て、
「幸内が参りました、有野村の幸内が推参致しました」
「あ、幸内が来たか、待ち兼ねていた、急いでこれへ」
その席へ呼ばれて来たのは、有野の馬大尽《うまだいじん》の雇人の幸内であります。
幸内は前にお君のところへお銀様の言伝《ことづて》を言った足でこちらへ来たものと見えます。そうして昨晩はどこか甲府の城下へ宿を取っていたものでしょう。
「これは皆様」
と言って幸内は遥《はる》かの下座《しもざ》から平伏しました。ここに集まっている連中は、みんな両刀の者で
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