《うまだいじん》へ行くのだが……」
ほどなくお君はこの馬商人《うまあきんど》に助けられ馬に乗せられて、有野村の馬大尽というのまで連れて来られました。
馬大尽の家の前まで来て見るとお君は、その家屋敷の宏大なのに驚かないわけにはゆきません。
甲州一番の百姓は米村《よねむら》八右衛門というので、それが四千五百石持ちということであります。和泉作《いずみさく》というのは東郡内で千石の田畑を持っているということであります。この馬大尽はもっと昔からの大尽でありました。
甲州の上古は馬の名産地であります。聖徳太子の愛馬が出たというところから黒駒《くろこま》の名がある。その他、鳳凰山《ほうおうざん》、駒ヶ岳あたりも馬の産地から起った名であります。御勅使川《みてしがわ》の北の方には駒場村というのがあります。この有野村は、もと「馬相野《うまあいの》」と言ったものだそうです。お君が来て見た時、屋敷の近いところにある広い原ッぱや、眼に触れたところの厩《うまや》を見てもちょっとには数えきれないほどの馬がいました。なるほどこれは馬大尽に違いないと思いました。
それのみか、門を入ってからまるで森の中へ入って
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