の、お君さん、お嬢様がお前さんに会いたいから、手がすいたら遊びに来るようにとお言伝《ことづて》でござんすよ」
「お嬢様から?」
「あい」
「畏まりました、有難うございます」
 お君は幸内のお使御苦労にお礼を言いましたが、幸内はそれだけの言伝をしておいてここを出かけて行きました。
 お君は暫らく幸内の行くあとを見送っていますと、
「お君さん」
 朋輩女中のお藤が後ろから呼びかけました。
「お藤さん」
 お君はそれを振返ると、お藤は、
「まあよかったことね、お君さん、お嬢様から招《よ》ばれてよかったことね」
「でも、わたし何かお叱りを受けるのじゃないか知ら」
「そんなことがありますものか、お嬢様はよくよくのお気に入りでないと、こっちから何か申し上げてもお返事もなさらないの、それをお嬢様の方からお招《よ》び出しがあるのだから、お君さん、お前はきっとお嬢様のお気に召したことがあるんだよ」
「そうだとよいけれど、わたしは何かお叱りを受けるんじゃないかと思って」
「そんなことはありませんよ、わたしたちはこうして永いこと御奉公をしているけれど、まだお嬢様から、遊びにおいでとお迎えを受けた者は一人もあ
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