申し分のないお子さんに見えましたが、ただその頬のあたりが子供にしては肉が落ち過ぎて、それがために、もともと人並より大きい眼が、なお一倍大きく見えるのであります。大きいけれども強い光はなく懶《ものう》いような色で満ちているから、品はよいけれども、どうも賢い子には見えません。
「ここへ来るとお母様に叱られますよ」
「でも……」
 三郎さんは大きな眼をキョロリとして、お銀様の方を見ていて立って動こうともしません。雨が降りかかって頭から面に雫《しずく》がたらたらと流れ、和《やわら》かい着物がビッショリと濡れてしまっても、少しも気にかけないのであります。それをまたお銀様は見ていながら、ただお帰りお帰りと言うだけで、立って世話をしてやるでもなければ、お君が立ちかけたのをさえ抑えてしまった心持が、どうしてもお君にはわかりません。
「早くお帰りというに」
 お銀様の権幕《けんまく》は凄《すご》くなりました。その釣り上った眼の中から憎悪《ぞうお》の光が迸《ほとばし》るように見えました。ただ姉が弟を叱るだけの態度ではなくて、眼の前にあることを一刻も許すまじき嫌悪《けんお》の念から来るもののようでしたから、お君はいよいよわからなくなって、ほとほと立場に苦しむのでありました。
「姉様、お菓子頂戴」
 それでも三郎さんは帰ろうとしないでこう言いました。そのくせ、姉の傍へは寄って来ないで遠くから、いじけるように姉の気色を伺って、やはり雨の中に立っているのでありました。キョロリとした大きい眼の瞳孔《どうこう》が明けっぱなしになってしまっているのを見るにつけ、このお子さんは人並のお子さんではないということを思うて、お君はお気の毒の感に堪えられません。
「いけません」
 お銀様はキッパリと断わってしまいました。
 見るに見兼ねたから、お君はお銀様の抑えるのも聞かずに立って下へ降りて来て、三郎さんの傍へ寄り、
「坊《ぼっ》ちゃま、雨がこんなに降っておりますから帰りましょう、お召物がこんなに濡れてしまいました」
「打捨《うっちゃ》ってお置きなさい」
 お銀様は相変らず怖《こわ》い面《かお》をしています。
「ね、わたしに背負《おんぶ》をなさいまし、あちらのお家へ帰りましょう」
 お君は自分のさして来た傘を廻して、それを片手に持ち三郎様へ背を向けました。
 お君がせっかく親切に背を向けたにかかわらず、三郎様
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