、また御別宅の方においでなさるともいうのですが、その辺が永年御奉公をしていて、わたしたちにはさっぱりわかりませんの。けれども今の奥様が二度目の奥様で、旦那様よりズットお若い方だなんて、女中たちの中では噂をしているものもあります。なんでも二度目か三度目の奥様に違いないので、あの三郎様やお嬢様の産《う》みのお母さんではないのですね。なんだか変に、こんがらがっていて、とても、こんな大家の財産《しんしょう》と内幕は、わたしたちの頭では算段が附きません。ただおかわいそうなのはあのお嬢様でございますね、あのお方はほんとうにおかわいそうなお方でございますよ」
「お嬢様が……」
 どうしても話は、例のお嬢様のところへ落ちて行かねばならなくなりました。
 お君が知らないと思って、この女中は、お嬢様のことについてはかなりくわしくお君に話して聞かせました。お嬢様の名はお銀様ということ。それはそれは怖ろしいお面《かお》、と言う時にお藤自身もゾッとして四辺《あたり》を見廻し、お君もあの時の面が眼の前に現われて身の毛が竦《よだ》ちました。なおこの女の語るところによれば、お嬢様のあんなお面になったのは、ただに疱瘡《ほうそう》のためばかりではない、それより前に大きな火傷《やけど》をしたのがああなったのだということでありました。誰かお嬢様にあんな火傷をさせた者があるのだというような口ぶりでありました。
 してみれば、天然の病気と人間の手とふたりがかりで、あのお嬢様という人の面を蹂躙《じゅうりん》してしまったことになる。なんという惨《むご》たらしい報いであろうと、お君は、どうしてもそのお嬢様のために心から同情しないわけにはゆきませんでした。
「これほどのお大尽でも、あればかりはどうすることもできませんね。それだからお君さんのような容貌《きりょう》よしに生れついた者は、お金で買えない幸福《しあわせ》を持っているわけですから、大切にしなくてはいけませんよ」
とお藤はお君に向ってこう言いました。野菜類を洗ってしまってから、お君はムクに食物をやろうとしました。
 ところが、いつもその時刻には来ているムクが見えませんから、お君は牧場へ出て、遠く眼の届く限りを見渡しました。しかしそこにもムクの姿が見られません。思うに群犬を率いて興に乗じて、あの山の後ろの方まで遠征して行ったものだろうと、お君は強《し》いては心配し
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