からそれで知ったのだ」
「ははあ、石碑の受売りか。その石碑もまた相当に古色があって面白い、年代はいつごろだろうか知ら」
「よく年代を知りたがる人じゃ」
「ええ、明暦《めいれき》とある、肝腎《かんじん》の年号の数字のところが欠けていて見えない、明暦も元年から始まって三年まである、厳有院様《げんゆういんさま》の時代であって、左様、今から考えると、ざっと二百年の星霜を経ている」
「してみると、その歌もその時代に咏《よ》まれたものであろう」
「いや、もっと調子が古いわい、江戸時代の産物ではない。いったいこの笹子山は一名|坂東山《ばんどうやま》といって、古来、関東で名のある山、日本武尊《やまとたけるのみこと》以来の歴史がある」
「なるほど、してみるとその歌は、日本武尊がお咏みなされたお歌ではないか」
「違う、日本武尊時代にはこんな和歌は流行《はや》らなかった」
杉の根もとで勝手な考証を試みています。
「古来、この道を軍勢が通る時は必ずこの杉に矢を射立てて、山の神に手向《たむ》けをして通るならわしになっていた」
「我々もその古例を追うて、弓矢の手向けをして行こうではないか」
「我々のは、甲州を治
前へ
次へ
全123ページ中100ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
中里 介山 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング