評が出たり、議論が出たりします。
「何といっても信玄と謙信の食い合いが戦国時代ではいちばん力の入った相撲だ。すべて相撲は段違いでは面白くないし、そうかといって同じ型の相撲が力ずくで揉《も》み合うのも面白くない、そこへゆくと謙信の勇に信玄の智、義を重んずる謙信と、老獪《ろうかい》な信玄と、型が違って互角なのが虚々実々と火花を散らして戦うところは古今の観物《みもの》だ。まあ、あんな相撲はおそらく日本の戦争に二つとはあるまいな、戦国の時代ではまさにあれが両大関だ」
「それはそうに違いない、川中島の掛引《かけひき》は軍記で読んでも人を唸《うな》らせる、実際に見ておいたら、どのくらい学問になったか知れぬ。我々は不幸にしてその時代に遭《あ》わなかったことを憾《うら》むくらいのものだが、しかしなお遺憾なことは、あの両大関を空しく甲斐と越後の片隅に取組ましてしまって、本場所へ出して後から出た横綱と噛み合わせてみなかったことが残念だな」
「それは誰でもそう思う、信玄と謙信が、もう少し長生《ながいき》をしていたら、トテモ信長公が天下を取るわけにはゆかぬ、信長公が世に出なければ太閤というものも世に出るわけに
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