みなしじゃ」
「その通り、我々が不平なるが如く、二百余名の勤番、誰とて駒井を快く思うものはあるまい。さりとて公儀からのお役目、それを反《そむ》くというわけにもいくまい。いよいよ駒井が来たら我々共の覚悟はどうじゃ、いかなる思案を以て駒井を迎えるか、あらかじめ腹をきめておかねばなるまい」
「拙者は病気所労と披露《ひろう》して当分は引籠《ひきこも》る」
「病気所労もよかろうけれど、いつまでもそうは言っておられぬ。もっと男らしい手段はないか、甲府勤番の反《そり》の強さを見せつけて、駒井の胆《たん》を奪うてやるような仕事はないか、駒井が着く早々縮み上って尾を捲いて向うから逃げ出すような謀《はかりごと》があらば、これ以て甚だ痛快なる儀じゃ」
「なるほど」
「機先を制して駒井能登を圧倒するのじゃ、そうして、甲府勤番には骨があって、彼等如き若年者で支配などとは以てのほかというところを、老中にまでも思い知らせてやるのじゃ、それをせねば後来のためにもならぬ」
「なるほど」
ここに三人の不平が火を発するほどに強くカチ合って、そうして彼等の上に来《きた》るべき、年の若い新しい支配というのを呪《のろ》い尽すの
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