たちは渡し賃を貰って人を渡しさえすりゃいいんだろう、通すの通さねえの、安宅《あたか》の関の弁慶みたいなごたいそうなことを言うない、富樫《とがし》にしちゃあ出来過ぎてらあ、第一、手前たちは富樫という面《つら》じゃねえ」
さあいけない、米友はまた啖呵《たんか》を切ってしまった。
米友流の啖呵を切って開き直ると、手に持っていた杖を眼にもとまらない迅さで取り直して、いま自分を撲《なぐ》った人足の眼と鼻の間に一刺《いっし》を加えました。
「あッ!」
その人足はひっくり返る、あとの人足は殺気が立つ。人足を一人突き倒して、しばらく彼等を呆気《あっけ》に取らした米友は、二三間、河原の向うへツツと飛び越して岩の上へ跳《は》ねあがり、
「俺《おい》らは伊勢の国から東海道を旅をして江戸の水を呑んで来た宇治山田の米友だ。東海道には天竜川だの大井川だのという大きな川があるんだ、こんな山ん中のちっぽけな川とは違って、水もモットうんとあらあ、そこには川越しの人足も幾百人といるけれども、手前たちのようなわけのわからねえ人足は一人もいなかったんだ。おじさん、俺らはこの通り足が悪いんだから、大事にして通しておくれと
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