、峠を越せば甲府まで一日で行けるということだ、小遣《こづかい》だって何もそのくらいのことには困りはしない、こんな金なんぞ要るものか、突返しに行くのも、あの女の面《つら》を見るのが癪だから、と言って置放しにして行けば、誰か取ってしまった時に米友が持って出たと思われるのが業腹《ごうはら》だと米友は、眼の前の金一封を睨《にら》めながら、腹を立てたり始末に困ったりしていましたが、結局庭へ抛り出してしまうのがいちばんよろしいと考えました。庭へ抛り出して撒き散らかして置けば、人の目に触れて、自分が持って出なかった証拠が立つと思いました。米友はその金一封を掴んで、ゲジゲジでも取って捨てるような手つきで持ち出して、障子をあけてポンと庭の方へ、それもお絹の部屋の方へ近く、なるたけ人の眼に触れるようなところへと思って投げ出しました。
 米友に投げられた金一封は、庭の松の木の幹に当ってコツンと音がしましたけれど、かなり固く封がしてあったと見えて、そのまま転がってしまったから、とても、梅忠《うめちゅう》がやったような花々しい光景にはなりません。
「ちぇッ」
 米友は舌打ちをしてその抛り出した金一封を尻目にかけ
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