情《ふぜい》で取合いません。

         十

 こうして神尾主膳の一行は笹子峠を向うへ越えて、黒野田の本陣へ着きました。
 黒野田の本陣へ神尾の一行が着いた分には仔細がないけれど、その一つの駕籠の中に隠して来たがんりき[#「がんりき」に傍点]をこの宿へ連れ込むとすれば無事ではないはずだが、一行がこの本陣の前へ着いた時に、がんりき[#「がんりき」に傍点]の駕籠だけはここへ留めないで、「鳥沢まで送ってやれ」ということになったのは、思うにまたしてもその鳥沢の粂という親分のところまで送り返されるものであろうと思われる。
 がんりき[#「がんりき」に傍点]だけを鳥沢へ送りとどけて、神尾の一行が、この本陣へ着いた時に、本陣では前の晩に能登守を泊めたと同じぐらいのもてなしをせねばなりません。
 そうしてそれぞれ失礼のないようにお迎え申したけれど、ここに奇怪なのはお絹の素振《そぶ》りでありました。この時、お絹はもう昨夜の災難のことなどは、ケロリと忘れてしまっているようでした。朝寝を少し永くしたぐらいのところで、主膳を迎うべく薄化粧などをして、主膳が着くと、真先に立って下へも置かぬもてなしが、
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