い込んで参りましたところ、この辺にて姿を見失い申した、もしやお見かけはござらぬか」
「とんとお見受け申さぬ」
「はて」
と言って能登守の手の者は、挨拶に出た主膳の家来どもを怪訝《けげん》な眼でながめ、
「ただいま、このところでたしかにその者の姿を見かけたものがござるが」
「我々の方においては左様な者を一向に見かけ申さぬ」
「年の頃は三十ぐらい、色が白く、小作り、もとは江戸の髪結職《かみゆいしょく》であった者、それに誰が眼にも著しいのは左の片腕が無いこと」
「ははあ」
「怪しい廉《かど》が多い故、いちおう取押えて置きたい」
「それは御苦労千万。しておのおの方は?」
「我々は、このたび甲府勤番支配を承った駒井能登守の手の者、甲府へ赴任の道すがらでござるが」
「しからば、これより峠を登り行くうち、まんいち左様なものに出逢い申さぬとも限らぬ、その折は取押えてお引渡しを致すでござろう、これにて御免」
これにはかまわずに、乗物を進めようとするから、能登守の手の同心と手先はあわててその前に立ち塞がるようにして、
「あいや、お暇は取らせぬ、暫時《ざんじ》お待ち下されたい。して御貴殿方はどなたでござる
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