の御亭主か何かが残しておいたお金をもって、それを寝かしておくのも惜しいから、金貸しをして暮らそうとでもいうんだろう」
「そんなことだろうと思うよ。その子供がまた、ばかにマセた子供でね、主人気取りで、俺らを使い廻す気になっていて、うっかり坊ちゃんなんと言おうものなら、怖い眼をして睨むんだからおかしいや」
「その子供さんが番頭をするんだろうから、お前は番頭さんといえばいいじゃないか」
「番頭さんでも気に入らないんだ、旦那様と言わないと納まらないんだからおかしいやな」
「旦那様というのは少しおかしいね、十四や十五の子供をつかまえて」
「けれども旦那様と言うことになったんだ。そうしてみると、俺らはあの、おばさんという人の方をなんと言っていいか、それをいま考えているんだ」
「その子供が旦那様では、まさか奥様とも言えないしね」
「そうかと言って、まだお婆さんという年でもないんだ、やっぱり奥様と言っているより仕方があるめえ」
「なんでもよいからその時の都合のいいようにお言い。それからお前、短気を出さないでよく奉公をしなくてはいけないよ」
「うまく勤まるかどうだか。それにしても君ちゃん、お前の方はどう
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