早く出て行っておくれよう」
「うむ」
米友は、やっぱり進まないで、
「挨拶をしろったって、キーキーキーだけでは済むめえ、なんと言っていいか俺らにはわからねえ」
「なんとでもいいかげんに、印度の言葉らしいことを言っておくれ、そうすれば口上の方でいいかげんにごまかしてしまうから」
「どうも俺らあ、もう気恥しくってキーキーも言えなくなった」
「あれさ、早く出ないと、あれあの通り土瓶や茶碗が降ってるじゃないか」
「弱ったなあ」
「早く出ておくれ、ね」
「親方、それじゃあね、俺らは一寸《ちょっと》ばかり面《かお》を出してね、出鱈目《でたらめ》を言うから、口上の方でごまかしておくんなさい」
「いいよ、呑込んでいるよ」
「それから親方」
「何だね、早くおし、相談なら後でゆっくりしようではないか」
「俺らはここで挨拶したら、もう印度人は廃業《やめ》だよ、黒ん坊は御免を蒙《こうむ》るよ」
「そんなことは後でいいから早く」
「ねえ君ちゃん、イカサマをやって人の目を晦《くら》ますと、こんな思いをしなくっちゃあならねえ、もう印度人には懲々《こりごり》だ」
「そんなことを言わないで早く」
「初めはちょっと出る
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