は片足が不自由だけれども力があるから、泥棒の用心にいいからって、それで雇われることになったんだ」
「そうだろうねえ、金貸しの家なんぞは泥棒に覘《ねら》われるだろうねえ。家の用心もしなくちゃあいけないけれど、自分の身も用心しなくちゃいけないよ」
「大丈夫だ」
「それで家の人数は多いのかい、雇人はお前のほかにたくさんいるだろうねえ」
「うんにゃ、俺らのほかには飯焚《めしたき》が一人、そのほかによそから来ている人はいねえ」
「大へんにこぢんまりした金貸しさんだねえ、それでは家の者が多いのでしょう、息子さんだとか、娘さんだとか」
「それもずいぶん少ないのだよ、よく考えてみると、おかしな家だよ」
「おかしな家とは?」
「でも、主人というのは子供なんだからね、子供といっても十四か五ぐらいだ、それが主人で、そのお母さんともつかず姉さんともつかない女が一人、その子は、おばさんおばさんと言っているが、その二人きりなんだ」
「その女の人と子供と二人で金貸しをしているの」
「うむ、そうだよ、代々やっているのかと思えばそうでもなく、ほんの近頃はじめたらしいんだから」
「では、そのおばさんというのが、先《せん》の御亭主か何かが残しておいたお金をもって、それを寝かしておくのも惜しいから、金貸しをして暮らそうとでもいうんだろう」
「そんなことだろうと思うよ。その子供がまた、ばかにマセた子供でね、主人気取りで、俺らを使い廻す気になっていて、うっかり坊ちゃんなんと言おうものなら、怖い眼をして睨むんだからおかしいや」
「その子供さんが番頭をするんだろうから、お前は番頭さんといえばいいじゃないか」
「番頭さんでも気に入らないんだ、旦那様と言わないと納まらないんだからおかしいやな」
「旦那様というのは少しおかしいね、十四や十五の子供をつかまえて」
「けれども旦那様と言うことになったんだ。そうしてみると、俺らはあの、おばさんという人の方をなんと言っていいか、それをいま考えているんだ」
「その子供が旦那様では、まさか奥様とも言えないしね」
「そうかと言って、まだお婆さんという年でもないんだ、やっぱり奥様と言っているより仕方があるめえ」
「なんでもよいからその時の都合のいいようにお言い。それからお前、短気を出さないでよく奉公をしなくてはいけないよ」
「うまく勤まるかどうだか。それにしても君ちゃん、お前の方はどう
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