うなんて」
「そうしてもいい人なんだよ、あの人はお前、本当は泥棒なんだよ」
「泥棒?」
「ああ、泥棒で悪い奴なんだから、助けない方がかえってためになるのですよ」
「だって、おばさん、お前は連れの人で、道で追剥《おいはぎ》に遭ってこんなことになったと話したじゃないか」
「それは、お前を驚かさないようにわざとそう言っておいたのよ、本当はあの人は泥棒で、入墨者といって、あの人をかくまったことが知れれば、お前もわたしも罪になるのだよ」
「どうして、おばさんはそんな人と連れになって来たの」
「それにはわけがあるんだけれど、今お前が知らせてくれた人が来るというのは、きっとお役人か何かだろうと思う、それで早く逃げなければお前もわたしも縛られてしまう」
「そりゃ困ったな」
「さあ、お前案内して、間道《ぬけみち》の方から早く逃げておくれ」
「だっておっ母《かあ》が里へ行ってまだ帰らねえし、それから……」
「そんなことを言ってる時ではありません、甲府まで逃げれば知った人もありますから、後はまたなんとでもなります」
「それじゃおばさん、逃げよう」
「早くそうしておくれ」
「待っておいで、大事なものを持って来
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