ひとりごと》、
「あのおばさんが、江戸へ連れて行ってくれると言ったから、江戸へ行ってしまうんだ、こんな山の中では出世ができない、いくら黄金《きん》を持っていても、それを上手に使わなければ詰らねえ、黄金を上手に遣《つか》うには都へ出なければ駄目だ、山へ来て黄金を取って都へ出て遣うんだ、黄金は人に掘ってもらって、自分はいつでも都にいて、遣って儲《もう》けていた方がいいだろう。それはそうと、いま向うの岸を廻った二人連れ、あれは、どうやら剣呑《けんのん》だ、早く行っておばさんに知らせてやろう」
 燧台の裏へ先廻りした金掘りの少年は、岩の間へ掛け渡した、半分は洞窟《ほらあな》になった小屋へ駆け込んで、
「おばさん、おばさん」
 笠も袋も投げ出し、
「人が来るよ」
 暗いところから面《かお》を現わして、こっちを見たのは、意外にも徳間峠を逃げたお絹の姿でありました。
「忠作さん、どんな人が来ます」
「五十ぐらいの合羽《かっぱ》を着た人が一人と、それから、まだ前髪のある若いお侍が一人」
「ああ、それでは……」
 お絹は、
「忠作さん」
 金掘りの少年の名は忠作というらしい。
「なに」
「今あの人は寝て
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