それは駿河の方から来て、この少し先の入《いり》から篠井山《しののいざん》の方へ廻ったようだ」
「そうか」
七兵衛はついにそれより以上の要領を得なかったから、
「有難う、小僧さん」
「さようなら、おじさん」
七兵衛が岩を飛び越えて、また上へ登ってしまうと、暫くして金掘《かねほ》りの少年は、
「うまく嚇《おどか》してやった、人を尋ねると言ったのは大方あのことだろう、燧台《のろしば》の後ろへ行くとお化けと狼が出ると言ったら本気にしていやがった」
椀《わん》を袋へ納めて牛の背のような岩の上へのぼる。
「おーい」
「おーい」
高いところの七兵衛と兵馬、谷の中の金掘り少年と呼び交《か》わす。
「右へ、右へ」
少年が右の方を指さすのに、兵馬と七兵衛はそれを知りながら面を見合せて左へ向う。
「右へ、右へ」
少年はしきりに叫びながら手を振って、
「おやおや、あの二人は左へ廻ったな、すると藤蔓橋《ふじづるばし》のあるところを知ってるのかしら、あれを渡られるとちっと困るぞ」
上の二人は、燧台に近い細道を川沿いに、
「あの小僧、なかなか人を食った小僧でございます、この山の後ろへ廻ると、お化けと狼
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