に思われて肩をすぼめ、横を向いてしまいました。
がんりき[#「がんりき」に傍点]が胸を打たれた次に、
「お前さんには二枚上げる」
上人は、その次に来た若い婦人には名号《みょうごう》の札を二枚やったのであります。
「有難うございます、有難うございます」
女はおしいただいて次へ通って行く。がんりき[#「がんりき」に傍点]の傍で人の話、
「あれは身持ちなんだよ、あの女は身持ちのおかみさんだ、上人様にはどうしておわかりになるか、わたしどもが見たんでは、まだ様子ではわからないうちに、上人様はちゃんとお見分けなされて、身持ちの女には必ず二枚ずつをお授けなさる」
がんりき[#「がんりき」に傍点]はそれと聞いて、いよいよ煙《けむ》そうな面《かお》。
その次には、おそろしく衣裳《いしょう》を飾ってお化粧をした町家《ちょうか》の年増《としま》。
「おやおや、あれは浜松の酒屋のお妾さんだが、どうして信心ごころが起ったろう、大へんにめかし[#「めかし」に傍点]込んで来たが」
その女が上人の前へ出ると上人が、
「ああ、お前の身には不浄《ふじょう》がある。それを洗って来なければお札は上げられない」
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