め》を結ぶ。
 米友は竜華寺《りゅうげじ》の方へ足を向けて、
「それにしても、俺《おい》らたち二人を泥棒の罪に落した奴は誰だろう、きっとほかに泥棒があるんだぜ、そいつが盗んで、俺らたちに罪をなすりつけたんだな」
「きっと泥棒がほかにあるんだよ、どんな奴だか知らないけれど憎らしいねえ」
「二人をこんな目に会わせて、故郷を立退かせるようにしたのもそいつの仕業《しわざ》なんだ、早く捜《さが》し出して明《あか》りを立ててみてえものだ」
「ほんとうに早くその悪者を捉まえてやりたい」
「ムクは知っているんだろうよ、備前屋へ入った泥棒をムクは知っているに違いない」
 お君はムクに話しかけるように言ったが、ムクは、やはり黙って歩いていました。
「そうよ、ムクはきっと知っている」

         九

 庵原《いおはら》村の無住同様な法華寺《ほっけでら》。竜之助を乗せた馬の轡《くつわ》を取ったがんりき[#「がんりき」に傍点]の百蔵は、そこへ机竜之助を連れて来ました。
「先生、どうかここんところへお坐りなすって下さいまし」
 竜之助の手を引いて坐らせたのは大きな囲炉裡《いろり》の横座《よこざ》。
 煤《すす》だらけになった自在鍵《じざいかぎ》、仁王様の頭ほどある大薬鑵《おおやかん》、それも念入りに黒くなったのを中にして、竜之助とがんりき[#「がんりき」に傍点]とは炉を囲んで坐りました。
「もう大丈夫でございます、先生、ここまで来れば」
 がんりき[#「がんりき」に傍点]は頻《しき》りに焚火《たきび》をする、その焚火が燈火《あかり》の代用をするのであります。
「今、坊様に頼みましたから、ほどなくお夜食が来るでござんしょう、どうも御覧の通りの荒れ寺でございます……と言って、先生にはおわかりになりますまいが、本堂も庫裡《くり》も山門も納所《なっしょ》もごっちゃなんで。そうしてこの坊主というのが、引導も渡せば穴掘りもやろうというんでございます」
 竜之助は例の通り頭巾《ずきん》を被ったなりで、刀は側《わき》に置いて、焚火に手をかざしています。その様は、がんりき[#「がんりき」に傍点]がなぜ自分を引張って来たかもわからず、どうするつもりだか知らないようでしたが、
「お前さんは、どういうお人だい」
 竜之助はこう言って、はじめてがんりき[#「がんりき」に傍点]に問いかけました。
「わっしでござ
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