でこうして俺は伊勢参りにも来られるし、うまい酒の一杯も飲めようというものだ、その冥利《みょうり》を思えば十八文様に黙っていちゃあ済まねえ、それだから提灯へおうつし申して御一緒に大神宮様を拝ませようという了簡《りょうけん》なんだ、それを貴様は情けねえの、あたじけ[#「あたじけ」に傍点]ねえの、ケチをつけやがって、承知しねえからそう思え」
「それはそれに違いありませんがね先生、そう物事をアケスケにやってしまっては実《み》も蓋《ふた》もありませんね、たとえ十八文にしたところで、百両百貫のような面をして……」
「まだわからねえ、この野郎、言って聞かせてやる、恥というのはな、学問のねえ奴があるような面《つら》をしたり、銭のねえ奴があるような面をしたり、薄っぺら[#「っぺら」に傍点]な奴が厚っぺら[#「っぺら」に傍点]の面をしたり、そんな奴が恥といえば恥なんだ、十八文はちっとも恥でねえ」
「左様ですかねえ」
「さあ持って歩け、ちょうちんもち[#「ちょうちんもち」に傍点]というやつはな、貴様のような薄っぺら[#「っぺら」に傍点]な人間でも大臣大将の先に立って歩けるんだ、増長しちゃいけねえぞ、手前《て
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