》が解けた。
「それはね、帯というたとて、金襴《きんらん》や緞子《どんす》でこしらえた帯ではない、天にある雲のことですよ」
「雲のこと……」
「それだけでは、まだわかりますまいね。なにしろ、それぐらいの執念ですから、この日高川の上、日高郡一帯には、まだ清姫様の怨霊《おんりょう》が残っているのですね」
「怖いことでございます」
「その怨霊が雲になって、この日高郡の空へ現われる、それ、あちらに見える鉾尖《ほこさき》ヶ岳《たけ》から、こちらに遠く白馬《しらま》ヶ岳《たけ》まで、一筋の雲がずーっと長く引いた時は大変だ、それが今いう、清姫様の帯だ」
「まあ、鉾尖ヶ岳から、白馬ヶ岳まで……」
「そうそう滅多にそんなことはないがね、五年に一度とか、十年目とかに、それが現われる」
「それが現われると、どうなるのでございます」
「それが現われたら、大変だ、この竜神村一帯に大災難が起る」
「それはホントでございますか」
「ホントにも嘘にも、昔からの言い伝えで、その時は、村中の御祓《おはら》い、御祈祷《ごきとう》、お慎《つつし》みをするのだ」
「その雲は夜でも……」
「夜でも昼でも、それが現われたが最後じゃ
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