永く迷いおれば食糧はなし」
こういったような話をしてこの一隊が、心して川の岸を進んで行った時に、
「申し上げます、もしあなた様方は紀州様でございますか、藤堂様でございますか、申し上げます」
岩蔭から転《ころ》がり出した猟師の惣太。一行は屹《きっ》と足をとどめて、従卒は鉄砲の筒を向けてみましたが、用心するほどの者ではない、賤《いや》しげな木樵《きこり》山がつの類《たぐい》がたった一人。
「その方は何者じゃ」
「猟師でございます、惣太という猟師でございますが、ただいま悪者を見つけましたから御注進申し上げます、ただいま、私共の山小舎《やまごや》へ都合十一人の浪人者が舞い込みましたのでございます」
「ナニ、十一人の浪人?」
「ええ、ただいま、酒を呑み、肉を食って休んでおります」
「よく訴人した、案内せよ」
惣太を先に打立たせ、やがてその山小舎のあたりへ来た時分に、前後の様子を篤《とく》と見定めた藤井新八郎は、
「惣太」
「へえ」
「気の毒だが、その方の小舎へ火をつけてくれまいか」
「焼くのでございますか」
「そうじゃ、あとで不服のないように普請《ふしん》をして取らせる」
「よろしゅうござ
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