むきだし》にこう言いかけられて面が真紅《まっか》になります。わが隠し事を腸《はらわた》まで見透かされた狼狽《ろうばい》から、俯向《うつむ》いてしまってにわかには言葉も出ない、足も立ちすくんでしまった様子であります。
「まことに、お恥かしゅうございます。それではあなた様には、何もかも」
「いや、何もいっこう知りませぬが、そなた様だけはこの世にない人と思っておりました」
「生きて生《い》き甲斐《がい》のない身でございます、お察し下さいませ」
お豊は、ハラハラと涙をこぼして言葉もつまってしまったのであります。
それを気の毒と見たか、哀れと思ったか竜之助は、
「縁あらば詳《くわ》しいお身の上を聞きもし語りもしましょう。して、そなた様は今どこにおられます」
「はい、この土地の薬屋と申す旅籠屋《はたごや》が伯父に当りまして」
「はあ、薬屋……拙者はこの植田丹後守の邸におります」
そのまま竜之助はサッサと楼門の方をさして通り過ぎてしまいました。
お豊は思いがけぬところで、思いがけない人に会い、思いがけない言葉を浴びせられて、しばらくなんだか夢中になってしまいました。
何という素気《そっけ》
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