た別の男と心中の相談をして遺言《かきおき》を書いているところを、よく知り抜いていながら助けようともしなかった。今は同じ女が仇《あだ》し男《おとこ》に身を任せると誓いを立てたのを聞いて、やはりそのままで置く竜之助の気が知れない。
「お豊さん、お前はいったん死んだ体、わしもいったん地獄を見て来た体、生《うま》れ更《かわ》り同士がこうして一緒になるのも三輪の神様のお引合せだね」
 金蔵はお豊の手をとった。お豊は金蔵のする通りにさせて、争わない。
 竜之助は、地蔵堂の蔭に立ったなりで、何と手出しもしませんでした。



底本:「大菩薩峠1」ちくま文庫、筑摩書房
   1994(平成6)年12月4日第1刷発行
   1996(平成8)年3月10日第5刷
底本の親本:「大菩薩峠」筑摩書房
   1976(昭和51)年6月初版発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:(株)モモ
校正:原田頌子
2001年5月11日公開
2004年3月6日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://ww
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