の国へ逆戻りをして来たものです。
薬屋の二階からその姿を認めて、お豊がここまで足を引かされたことも、まるきり夢ではありませんでした。
しからば、竜之助は今どこにいるか――なんでもないこと、川を隔てた直ぐ向うの桜井の町へ、一行の浪士と共に宿をとっているのでした。
これら浪士の一行が、この後、中山|忠光《ただみつ》を奉じて旗上げをした「天誅組《てんちゅうぐみ》」の卵であることは申すまでもありません。
「天誅組」は天忠組である、天朝《てんちょう》へ忠義を尽す義士たちの寄合いである。そうして机竜之助は、かの新徴組から新撰組にまで、腕を貸した男である。新徴組や新撰組は幕府の味方である、天忠の志士とは根本から目的が違うのであります。
では、机竜之助こそ、松本奎堂あたりに説かれて、改めて天朝へ忠義の心を起したか、徳川へ尽す志を変じたか。
そんなはずはない、竜之助が新徴組に腕を貸したのとても、なにも徳川に恩顧があるわけでもなければ、幕府を倒してはならないという義憤があるわけではないので、ただ行きがかり上そうなったまでであります。
されば、「天誅組」の仲間になったとても、事改めてギリギリ歯を
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