》ができないかい、そんな大それたことをホントになさる気かい」
「するとも――あの薬屋の源太郎めは、わしの親から、お前さんを貰いたいと頼んだのに、てんから謝絶《ことわ》ってしまいやがった。あの丹後守は、お前を隠して、わしに会わせなかった。この二人は深い怨《うら》みだから、わしは、ここでお前を殺しておいて、その怨みを晴らすのだ、刷毛《はけ》ついでにあの三輪の杉へ火をかけて、丸焼きにしてくれる」
「ああ、どうしましょう、金蔵さん、それだけはよして下さい、わたしをここで存分に斬るとも突くともして、それでほかの怨みは帳消しにして下さい」
「そうはいきませんよ、わしの親たちが、先祖からのこの三輪の土地にいられなくなったのは誰のおかげだい――わしはもう、あの三輪というところを焼き亡ぼしてしまって、そうしてその火の中で焼け死ぬのだよ」
「金蔵さん、なぜ、お前はそんな怖ろしいことをします」
「そんな怖ろしい心にしたのは、誰だい、お豊さん」
「金蔵さん、そんな無理なことを言わないで……」
「何が無理だい、お前が人のおかみさんならば、わしの言うことが無理かも知れないが、お前は定まる夫のない身ではないか、それ
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