大菩薩峠
三輪の神杉の巻
中里介山

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)大和《やまと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)伊勢の国|関《せき》の宿《しゅく》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「山+壽」、第4水準2−8−71]
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         一

 大和《やまと》の国、三輪《みわ》の町の大鳥居の向って右の方の、日の光を嫌《きら》って蔭をのみ選《よ》って歩いた一人の女が、それから一町ほど行って「薬屋」という看板をかけた大きな宿屋の路地口《ろじぐち》を、物に追われたように駈けこんで姿をかくします。
 よくはわからなかったが、年はたしか二十三から七までの間、あまり目立たないつくりで、伏目に歩みを運ぶ面《かお》には、やつれが見えて何となしに痛わしいが、それでも、すれ違ったものを一たびは振返らせる。鳥居の両側にはいずれにも茶屋がある、茶店のないところには宿屋があって――女の姿をいちばんさきに見つけたのは、陸尺《ろくしゃく》や巡礼
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