は出版者及び文学者に大きな投機心と成金とを与えたけれども、その功過というものはまだ解決しきれない問題として今日に残されている。
然し、円本時代が去ったとはいえ大菩薩峠の威力はなかなか衰えなかった、他の出版物は下火になってもこれのみは衰えないのである、そうして春秋社と著者との関係も時々何か小さなこだわりはあったけれども、大体に於て順調であって最近まで来たのであるが、遺憾ながら最近に至って非常に不本意なる事態を惹《ひ》き起すに立ち至ってしまったのは遺憾千万のことと云わねばならぬ。
その原因は出版社としての春秋社が営業不振に陥ったということが原因で、春秋社の営業不振は一つはまた一般出版界の不振の為で、その出版界の不振というのも遡《さかのぼ》れば円本時代の全盛が遠因を孕《はら》んでいると見られないことはない、小生としては春秋社が振わなくなったからというて、それを疎んずるという理由は少しもないのだし、また栄枯盛衰は世の常だから良い時に共に良ければ悪い時にも共に助け合う位の人情を解せぬ男でもないのである、然し春秋社の営業難の為に自分の著作が犠牲になるということは忍び難いことである、春秋社の窮状
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