なり》質の違わぬものを買い集めたものであったが、その経験によるとたしか一〆が三四円程度であったと思うが、それでも店によって一〆について一円も相場が違うようなことを発見し、商売というものはやっぱり坪を探すものだなということに気がついた、然し、一〆でそんなに値段が違うというのは自分が見ては質にはそんなに差はないと思ったけれども事実品質がそれだけ違うのか或いは取引とかストックとかの関係でそういうことになるものか、何にしても同じ商品でもそういう高低のあるものだというような知識は与えられたのである。
 さて、そうして第一冊の三百部正味二百五六十部の製本がすっかり出来上ってしまった、そうして都新聞の片隅に小さい広告を出し、一円の定価をつけて売り出したのである、本郷の至誠堂という取次店がこれを扱ってくれたが、永年の読者で直接注文もかなりあった、その注文者のうちにはこんな汚ない不細工の印刷では売り物になるものかといって小言をいって来た人もあったが、その粒々辛苦(或は道楽)の内容を知らないのだ、その汚ない不器用の出来上りが実は無上の珍物であるということを知ろう筈はない、その時は紙型はとらなかった、最初組
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