現在生きて居られる諸名士のうちにも随分不朽の人物がおいでになるに相違あるまいと思うが、これとても一度も親しくお目にかかったことのない方が多い。
大菩薩峠出版略史
それから同時代の史上の人物としては勝海舟《かつかいしゅう》がある、勝の死んだのは明治三十二年余が十五歳の時のことであった、無論親しくその人を見たことはないが、その頃出た「氷川清話」という本は愛読したもので、少年時代のこれ等の書によって受けたところの感化は少いものではなかった。
カールマルクスは余が生れる二年程前に死んでいる、ナイチンゲールとも青年時代までは同じ地球の空気を吸っていたことと思う、レニンもまた史上有数の人物だ。
相撲では梅ヶ谷、常陸山の晩年を国技館の土俵の前で見たことがある、年寄としての大砲も見た、然し国技館の本場所へは僅に一回行って見ただけで、その後は新聞見物に過ぎなかった、太刀山の全盛時代一度その武者振りを見たいとは思ったが進んで行こうという機会を作ることなくして終った、然し普通の姿での太刀山は屡々《しばしば》見た。
日本の漢詩学界の豪傑|森槐南《もりかいなん》が亡くなったのは余の二十七歳
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