けて置く彼等文壇一味の伏兵が一時に起ってそれこそいいように母屋をまるめて了う魂胆は眼に見えるようでもある。
兎に角我輩はその席上では菊池君をおひゃらかしてしまったというわけではないが、肝胆を照らして頼むわけには行かないで、余計な事ばかり喋べり散らしたので城戸四郎君などはイライラしていたようであった、その席はそれで済んだが、後で菊池君が脚色を辞退して来てしまった、興行者側では当惑したろうが自分の方では一向当惑しなかった、気に入った脚色が出来なければ上演しないまでの事だ、先方には幾らも好脚本はある筈、こちらは強《し》いて上演して貰う必要もないのである、然し興行者側としては折角ここまで来たものを脚色問題で頓挫せしむるのは忍びないことであると見えて、菊池君に代るべき脚色者をという話であったが生じいの脚色者では原著者が承知する筈はなし、そうかと云って岡本綺堂老《おかもときどうろう》あたりがやってくれれば申分はあるまいがあの人は絶対に他のものを脚色しない、そこで、興行者側も困り抜いて左団次一座の座附の狂言作者に切り張りをさせて誤魔化そうとする浅はかな魂胆を巡らそうとした策士もあったようだが、そん
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