たことであるから、そうしたらどうかという提案を持ち出したが、山本君は、それはどうも困る、自分の立場としては今直ぐに止めて貰いたいという云い分であった、山本君も決して分らない人ではないが、詰り社中の空気が如何に大菩薩峠連載に好感を持っていなかったかという、その力に余儀なくされたものであろうと思う。
 そこで余輩は直ちに答えた、そういうわけならば決して私は要求しません、即時に止めましょう、斯ういう話合で山本君は帰ったのだが、その時に帰り間際に山本君も、しかしまた他の新聞から交渉でもあった時は、都新聞の方へ知らせて貰いたいという希望を一言云われたが、その時小生は、それはお約束は出来ますまい、と云った。
 右のような次第で、こんどは本当に都新聞と絶縁をしてしまったのだ、その時までは都新聞の方でも絶えず新聞も送っていてくれたが、それが済むと新聞の寄贈も無くなり、こちらも辞退した、つまり松岡君との交渉を山本君が代って清算してくれたのだ、小生としては松岡君の面《かお》も立て、都新聞への情誼も尽したつもりでいる、この上他の新聞から交渉がありましたが如何ですかあなたの方はというようなことを云ってやることの出来る筈のものではない、そこで都新聞と大菩薩峠との交渉は一切清算されてしまったのである。
 さてそれから幾程を経て、東京日日と大阪毎日新聞との交渉になるのである。



底本:「中里介山全集第二十巻」筑摩書房
   1972(昭和47)年7月30日発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5−86)を、大振りにつくっています。
入力:門田裕志
校正:多羅尾伴内
2004年6月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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