ーだと言って居る。しかし僕等の考えでは、農本主義イデオロギーは没落過程にある寄生地主のイデオロギーであると思う。一般にファシズム・イデオロギーを評価する場合に、そのイデオロギーに引きずられる階級層というものと、そのイデオロギーを生産し指導する階級層とを区別しなければならない。その意味で、例えばドイツでも人民革命が問題であって、従って小ブルジョアの不安ということから、直ちに反動的な哲学が引き出される様にいうことは疑問と思う。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
戸坂 僕もそう思う。
C D君によって、その点は明らかにされたと思います。
中村 ハイデッガーを知るに、何を読むのが近道でしょうか。
戸坂 ハイデッガーの『存在と時間』です。また簡単に知ろうとするには、ハイデッガーの『形而上学とは何ぞや』であります。湯浅氏によって訳されたものが理想社から出版されています。
[#ここで字下げ終わり]

   結語

[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
戸坂 要するにハイデッガーの哲学は、自然及び社会に対する科学的認識の否定を意味する。
[#ここから1字下げ]
 それは一方ブルジョア社会の技術的発展の行詰りを言い表わすと共に、他方自然及び社会をば、いよいよ技術的に把握して行こうとしつつあるマルクス主義に対する反抗を意味する。
 その意味に於て、ハイデッガーの哲学は反ソヴェート・イデオロギーの一つの代表者と見做されるべきだ。
 一つというのは、それ自身には明確にファシズム・イデオロギーを標榜しないが、それにも拘らず、ファシズム・イデオロギーへの準備を与えるという形を言う。
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
B なおハイデッガー等の哲学が、現実に対する科学的認識の代りに、感情、気分と云った様なものによる非合理的な把握の仕方を強調している点も、政治的アヴァンチュリズムを特色とするファシズムに対して、理論的連関があると云えるでしょう。
[#ここで字下げ終わり]



底本:「戸坂潤全集 第五巻」勁草書房
   1967(昭和42)年2月25日第1刷発行
   1968(昭和43)年12月10日第3刷発行
入力:矢野正人
校正:土屋隆
2007年1月5日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
前へ 終わり
全28ページ中28ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング