B
[#改段]


 13[#「13」は縦中横] 古本価値


 散歩の序でに、小さな古本屋で、ルナンの『科学の将来』という小さなうすぎたない本を見つけた。三十銭で買った。『ヤソ伝』のエルネスト・ルナンが一八四八年頃、二十六七歳の若さで書いた本である。翻訳者は西宮藤朝氏で、氏はたしかブトルーの『自然法則の偶然性』を訳出していたと思う。この訳は全体の約半分を含むもので大正十五年に資文堂という出版屋から出ている。叢書形式の内の一冊かも知れない。そうすれば半分だけを訳して出すということも、分量の上から云って止むを得ないことだったかも知れない。
 併しそのために、何と云っても出版物としての価値を損ずること甚だしいのは事実だ。この原著自身は、何も隅から隅まで目を通さなければならぬ程大事な内容で充満しているわけではなく、まだ幾分に生まな常識のかき合わせに過ぎぬと思われる部分も多いが、それにしても訳者も云っている通り、ルナンの其の後の仕事の方針を宣明したものとして、大いに価値のある文献なのだが、それが半分では、全く雑本としての価値しかない。こう古くなって誰も手にとっても見ないようになると、そういう点
前へ 次へ
全273ページ中37ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
戸坂 潤 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング