シも恐れないことにしよう。尤も「趣味」本の類ばかりを新刊したがるような一種の新聞的新刊紹介のやり方は、真似したくないものだが。
さて手始めに私の友人である石川湧君を御紹介しよう。勿論彼はフランス語による評論の翻訳者として相当有名な人物だ。同時に彼は大変な不平家である。自分が訳す本は世間でも文壇論壇でもあまり注目しない、何という莫迦ばかりの世の中だろうというのだ。最近彼の選訳になるレミ・ド・グルモンの『哲学的散歩』(春秋社)が出た。全訳ではなくて彼の手に負えるもので、重大性を有ったもので面白いものだけを選んだのであると云っている。併しグルモンの思想、考え方、哲学、文学意識、其の他其の他、要するに吾々にとって必要なグルモンは、之で立派に紹介されているわけである。グルモンのこの本の訳は、すでにどこからか出版されたこともあるとかいう噂を聞いたが、殆んど知られていないので、この石川訳が最初のものと考えていいだろう。
訳者も説明しているようにグルモンは一方に於て詩人だ。クラシシズム派の詩人である。けれども吾々にとってもっと直接縁故のあるのは、寧ろ評論家思想家としてのグルモンだろう。そのグルモン
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