的権謀術策論であって、彼が、君主に権謀術策を献言することによって計らずもその欺まんの機構を暴露する結果となり、イデオロギー論の先駆をなしたゆえんが説かれる。
 ベーコンのイドラの理論がその前後の思想家達のものに較べて如何に社会学上約束に満ちたイデオロギー論を含むかが、次に明らかにされる(第二章)。第三章では、フランスの啓蒙哲学について、コンディヤックの感覚による認識の解明と、エルヴェシウスの自愛による道徳の説明、それからドルバックの感性による道徳の説明が、イデオロギー論の至極不完全な萌芽として見られている。
 第四章として※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]入されたド・トラシの「イデオロジー」の項目は、イデオロギーという言葉の歴史的淵源を明らかにするためのもので、最後の第五第六の二章はそれぞれシュティルナーとニーチェとの解説に当てられている。前者は自我の内から一切の既成の固定観念を追放し、唯一者の独自の所有に立ち帰れと叫ぶ点において、又後者は、真理や道徳が本能という権力意志の創造的な功利によって評価されねばならぬと主張する点で、不完全ではあるが天才的なイデオロギー論を示すものとして、挙げられているのを見る。
 これ等の思想家達のイデオロギー理論それ自身が、無論ここでは一つのイデオロギーとして、即ちそれぞれの時代の経済的・政治的・文化的・地盤から相当によく説明され又批判されているのである。
 さて、以上挙げた思想家達が特にイデオロギー論の先駆者として選ばれた理由は、多分、彼等が虚偽論乃至誤謬論に対して著しい興味を示しているからだろう。実際イデオロギーという概念のもっとも挑発的な点は、それが虚偽意識[#「虚偽意識」に傍点]を意味するという所に横たわっている。従ってここに展開された思想史は、単に「イデオロギー[#「イデオロギー」に傍点]論の系譜学」であるばかりではなく(『イデオロギーの系譜学』というタイトルよりもこの方が適切ではなかったかと思うが)、うそ[#「うそ」に傍点]をつき虚偽を犯し誤謬に陥る限りの、人間性を描きだそうとした人間学[#「人間学」に傍点]の系譜学でもあるように見える。
 所で、マルクス主義的イデオロギー論に先立つこれ等思想家達の「イデオロギー論」は、一つの共通の特色を有っている。それは、ベーコンなどの場合を除けば、ど
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