政治的批判(社会機構の分析の上に立脚する)がその条件とならねばならぬではないか、という疑問だ。著者が実践的な社会理論家ではなくて、学究的な社会理論家であるということが、ファシズム・イデオロギーに対する政治的水準と政治的角度とを許さぬらしい。だが本書のような仕事は、却って又、例えばパーム・ダットなどでは見得ないものでもあるのだ。
(一九三六年十二月・岩波書店版・菊判・四八〇頁・定価三円)
[#改段]
16[#「16」は縦中横] 早川二郎著『日本歴史読本』
以前発表された『日本歴史読本』を殆んど全部に渡って書き改め、全く別稿としたものである。旧版以来の新興歴史学派の諸業績を摂取し、多少の意見を変更し(奴隷所有者的構成や近世土地制度の沿革についての如き)、「経済史的偏向を可成り克服し」、「個々の政治的事件・制度・人物等に渡っても大いに述べた」と著者は云っている。
第一章は「原始時代及び『部』民制度の時代」(この部分は考古学的考証の新しい成果から出発している)、第二章は「『アジア的封建主義』の時代」(ここでは当然奴婢乃至奴隷と荘園発生発展という最も問題を含む部分が取り扱われている)、第三章は「典型的封建主義の完成時代」(鎌倉・建武中興・南北朝・に渡りその歴史的意義は時節柄最も興味のあるものだ)、第四章は「商業資本の発生及び発展の時代」(室町時代でありイデオロギーの問題としては鎌倉室町を一続きに論じている)、第五章は「封建制度再編成の時代」(戦国・安土桃山)、第六章は「資本主義の諸前提の生誕及び成熟時代」(江戸時代)、第七章は「明治維新」、第八章は「ブルジョア的変革の完成化の時代」であり、明治二十二・三年を以て筆を止めている。付録として「社会経済構成より見た世界対照年表」と「重要事件の年表」と更に「参考書の解題」とがあり、各章の終りには各節毎の参考文献と若干の注解とを含む「補注篇」がついている。図版(別刷を入れて)七十二図に及ぶ。
之によって明らかなように、本書が日本歴史に関する極めて統一ある且つ親切な教科書であり、更に又注目すべきは、その歴史認識と歴史叙述とが科学的な本格を踏んでいる(と云うのは即ち史的唯物論の方法によって貫かれているということだ)、ということが判るのである。今の処本書が占めているユニックな位置は動かすことが出来ない。日本文によって書かれた
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