として自覚され、倫理学などが発生するのは、一般に社会変動と夫に基く思想的動揺とに照応してのことなのだ。近代ブルジョア倫理学の発生も亦そうなのである。
 前にも云ったが、近代倫理学はイギリスのブルジョア倫理学として発生し又発展した。その直接の源をなすものはトーマス・ホッブズであった。ホッブズに先立つエリザベス時代は、イングランドがヨーロッパ[#「ヨーロッパ」は底本では「ヨーロョパ」と誤記]に於ける制海権を握り植民地貿易企業には莫大の利潤をあげ得た、商業資本主義の大規模な発達時代であった。当時の海外貿易会社は一〇〇割の配当をなし得たとさえ云われている。尤もこの点ルイ十四世治下のフランスでも大した差はなかったのだが、併しイングランドに於ける特色ある一事情は、新興ブルジョアジーの早い発達が容易に地主貴族の利害と結合出来たという点に存する。だから反封建的なノミナリズム的な経験論的機械論(之が近世ブルジョアジーの本来の世界観であった)が、絶対君主主義などと理論的に結合することも強ち不可能ではなかったので、恰もホッブズの倫理思想は、そうした場合に相当するものに他ならなかったわけだ。
 ホッブズの倫理
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