)の哲学として発達したという歴史を抜きにすることは、倫理学論として見逃すことの出来ない欠陥でなければならぬ。今日の所謂「倫理学」、即ちそういう一種の独立な又は支配的な又大切な哲学か精神科学、の根柢には、初め近世イギリス・ブルジョアジーによって代表された生活意識からの伝統が反映されているのである。之が近代倫理学[#「近代倫理学」に傍点]の根本特色なのだ。
 そして而もこの歴史的な階級的な規定を特に無視することによって、自分を何か普遍的に通用するものであるように見せようということが又、近代倫理学なるものの根本特色でもあるのである。――所謂倫理学は、単にそれがブルジョア観念論哲学一般の理論的に最も重要な一環であるからばかりではなく、それに特有な歴史的起源から云っても亦、ブルジョア的道徳理論の他のものではなかったのである。で吾々は、道徳理論一般をすぐ様、倫理学と呼ぶことを躊躇せざるを得ない。吾々は道徳に関して、特に「倫理学的」な観念を他の道徳観念から区別して指摘する必要があるのだ。
 処が通俗常識に従えば、道徳理論は問題なしにすぐ様倫理学と呼ばれるに値いするように想像されている。この点は注目を
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