形式だけのではない)固定化を意味する。この徳目を社会にまで及ぼしたものが、国民道徳や公民道徳なのである。国民や公民の徳目は云うまでもなく絶対不動な人間性と絶対不動な国民的伝統とに根ざしていなくてはならないとされる。そう仮定することは、この場合の道徳が有つべき社会的強制力、而も外部的な社会強制力を合理化するために必要なのだ。かくて一つ一つの社会的道徳規範[#「道徳規範」に傍点]や道徳律[#「道徳律」に傍点]が、道徳の何よりの実質だということになる。そして道徳を道徳規範や道徳律として強調しようという常識は殆んど凡ての場合、その規範乃至道徳律が永久不変な内容でなければならぬと仮定している。――かくて徳目道徳主義の常識は、一般に道徳の絶対化、道徳の形而上学化、と必然的な連関を有つのである。この道徳に関する非歴史的な観念は、道徳に就いての常識観念の内最もよく注意されている欠陥であって、事実、道徳全般の一つの秘密は、事物の変化を観念の不変物でおき代えることにあると云ってもいいからだ。このようにして、道徳を道徳律[#「道徳律」に傍点]だけに集中しようとするのが、常識的な道徳観念の第三の欠陥だ。
 だ
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