労働婦人の革命的役割を見ても知られるだろう(コロンタイ『新婦人論』を見よ)。
 だが新しい道徳の建設又は建設の見透しは、同時に新道徳の観念[#「観念」に傍点]の建設と平行せねばならぬ。大いに、新しい道徳[#「新しい道徳」に傍点]に就いての観念を建設するだけではなく、道徳に就いての新しい観念[#「新しい観念」に傍点]を必要とするだろう。そしてこうした道徳の新観念を理論的に仕上げるためには、新しい物の考え方・方法の考察も亦必要となるだろう。私がこの本で企てる処は、どういう風に考えれば、道徳に就いての最も科学的な観念を得るかということだ。この観念によって、新しい道徳の建設という課題も、初めて充分に目的意識的に、而も包括的な観点から見たその含蓄に於て、解けるようになるのではないか、と思っている。
 この手短かな本で以て、私が新しい道徳そのものを説き立てるというようなことは、元来出来ない相談でもあるし、少し滑稽なことでもあろうと考える。私の問題はもっと手近かにある。現下の既成乃至待望道徳に対する吾々の不信を系統化することだ。そしてそれが道徳なるものの新観念[#「新観念」に傍点](尤も本当は新しくも何ともない当然な観念の再認識だと思うが)の検討ということになるのである。――私はそのために邪魔になるような通俗常識的な道徳観念[#「通俗常識的な道徳観念」に傍点]をまず整理したのである。
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 第二章 道徳に関する倫理学的観念

 道徳に関する理論乃至科学が、普通、倫理学[#「倫理学」に傍点]というものだと考えられている。なる程倫理学(Ethics)を言葉通りに取るなら、一切の道徳問題は倫理学の対象であると云っていい。なぜならこの言葉は性格(ethos[#「e」はマクロン付き(−)E小文字])と習慣(ethos)とから来たものであって、社会生活を営む人間の比較的外部的な生活規定である処の習慣風俗の問題と、その比較的内部的な生活規定である性格性情の問題とは、吾々の道徳問題の一切を含むと考えられるだろうからだ。
 そういう意味で、吾々は広く倫理思想というもので以て、道徳に関する意識を云い表わすことも出来ないではない。だがその場合、そこに含まれるものは所謂「倫理学」ばかりではないので、政治学・法律学・社会理論・人性論(人間学)・制度理論・実践哲学、等々も亦ここに含まれていなくては
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