なことだ。
 最近ソヴェート連邦コム・アカデミーで文芸百科辞典のための執筆が行なわれているそうだが、その草稿を中心とした討論が二三項邦訳になっている。『文芸の本質』や『ロマンの理論』がそれだ。これの書き方や論じ方は決してペダンティックではないが、理論水準としては非常に高いものを含んでいると思う。之等の理論の水準の高さは全く、文学を一つの認識様式(科学に並ぶ処の)として、正面から検討している点にあるのである。
 文芸学[#「文芸学」に傍点]への興味は日本に於ても最近焦点を持つ傾きを生じつつあるのであって、之は文学というものがその文化的社会機能に於て段々整頓されて来つつあることを意味し、それだけ文学の社会的役割についての要望が、世間大衆の通念になりつつあることを間接に暗示するものだとも思うのだが、理論的な文芸学(文芸史と文芸美学との結合だ)にとっては、文学が認識様式だというテーゼは、公理的な出発点でなければならないだろう。
 そこで、道徳が文学の根本問題だというのは他でもないのだ。文学という認識様式に就いての云わば認識論的・論理学的・即ち又文芸学的・な観点に立って、この道徳というカテゴリー
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