処を指すと云わねばならぬ。先に道徳=モラルが恰もそういうものであり、夫は文学的認識・反映の場処や媒質であったが、思想もつまりそういうものと大して異ったものではないことが判る。道徳=モラルが問題になる処では、事実同時に、いつも思想が問題になっている。現に文学の場合などがその証拠だ。――で、そうだとすると、道徳的本質を持つ筈だった風俗が、思想[#「思想」に傍点]という意味を有つことは、尤も至極なことだったわけだ(思想が風俗となって初めて熟する所以を「現下に於ける進歩と反動との意義」――『日本イデオロギー論』の内――に於て私は少し説いた)。

   四[#「四」はゴシック体]

 さて、風俗というカテゴリーが論理的に有つべき性質の、大体の輪郭を私は描いて見た。つまり風俗とは道徳的本質のもので思想物としての意味をもつものだという、一見平凡至極な結論なのである。だがこの結論は、風俗が有っている社会的リアリティーの特質――大衆性の一ファクターに注意を喚起するのに役立つだろうばかりでなく、この特有な社会的リアリティーに就いての観念や表象や概念やカテゴリーが有っている処の、理論的・文学的な論理上・認識
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