語であって、決して無条件に説明上の科学的用語でない。だから風俗が思想の表現だと云っても、思想が本当に風俗という形をとって現われて来たことではないのだ。吾々は言葉の綾にだまされてはならず、言葉の洒落にひっかかってはならぬ。思想は一つの[#底本では「思想一つの」となっている]観念物だ、併し風俗は目に見える風物だ。思想という観念物が風俗という風景となって現われるというような神仙譚ではなくて、単に風俗が思想を云い表わしている、一種の思想を意味[#「意味」に傍点]している、という事実だけが本当なのだ。
思想乃至意識に就いても説明しなければならぬ要点があるのだが夫は省かねばならぬ(前出『道徳論』参照)。併し少なくとも思想という言葉も亦、一方今云った観念物を指示すると共に、他方、この観念物を云い表わしている一切の物的風物――風俗などがその一つだった――のもつ「意味」をも指示している。その点だけは注目すべきだ。だから本当の「思想」という観念はもはや単なる観念物をいうのではなくて、そういう観念物をも又更にこの観念物を云い表わすような物的風物が有つ「意味」をも把握させる処の、反映・認識の機構上の一つの個
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